2012/05/10

理想をいかに形にするか:自転車バッグG4 "TRUNK" (1)

GW前の革工作は、


もうひとつあったのでした。

さきほど記事にして取り上げたG2Rと違って、このG4はデザイン面ではさほど難航しませんでした。

オーナーと何回かお話しした時に、「トランクケースのようなもの」ということで基本的な方向性は定まっていたからです。

そこではすべて盛り込むのが不可能なほどのアイデアが出ました。
・モチーフはトランクケース、旅
・iPadを天板につけられるサイズ
・トランクケースらしくベルトもつけたいがこれまでのコンチョも捨てがたい
・自転車の色に合わせた裏側も貼ってほしい
・金属の蝶番と取っ手もつけたい
などなど。

わたしも当然ながら、その「これは面白い、やろうやろう!」と議論に花を咲かせていた張本人なのですが、オーナーと別れたあとちょっと冷静になってみて、ふつふつと疑念が沸き起こってきました。

「…これ、ホントに出来るのかな?」

◆◆◆

しかし覆水盆に返らず、口に出してしまったものは引っ込められません。

自分の実力に見合うものでなくとも、とりあえず約束してしまったものはやらざるを得ない。
大口を叩いたあとに冷や汗をダラダラ流しながら、また実際に汗水たらしながらごりごりと前に進んでなんとか形にしてゆくことでなければ、実力以上のものはできませんからね。

そういうわけで、なんとか前進する手がかりを探すことになりました。

わたしが自転車向けにこれまで作ってきたバッグというのは、どれも一枚革のぐるりに側面がついたものでした。
ところがこの構成で作ろうとしても、いわゆるトランクケースのような適度に角張った箱型になりづらい。そこが、大きな問題でした。

そういうわけで、他のやり方を模索してたどりついたのが、重箱型でした。

いいかげんな展開図ですが、こんなふうですね。


展開図がいいかげんなのは、わたしの性格もありますが、そもそも設計の段階ではいいかげんなものしか書けなかったからです。

◆◆◆

ところで、革を使ってバッグを作るときには、ほとんどの場合は型紙というものを作ります。

しかし、画用紙や模造紙で作られた型紙と違って、革には厚みもコシもある関係上、型紙と同じサイズに革を切り取って組み立てたとしても、思っていたとおりにはなりません。

そういうわけで、大体の場合は少し余分目に革を切り出しておき、バッグを組み立てながら、不要な部分を特定しながらそれを除いてゆく、ということになるのです。
(そのことと同時に、不要だった部分を測り、型紙にフィードバックしてゆくことで、型紙が仮説の段階から理論の段階へと高まってゆくことになります)

しかし今回の場合は、このやり方で本当にバッグとして仕上がるのか、直立するのか、形が歪んでしまわないのか、フタがしっかりと閉まるのか、どれだけ余分に革をとっておけば出来上がるのか、といったありとあらゆることが不明瞭なままでした。

このように工程のところどころに不明瞭な工程が見られる場合、「作りながら考え、作れたものを見て考えながら作る」ということが要求されます。

これまでのバッグが、「切り出して、縫う」という大きな2工程で組み上げてゆけたのに対して、今回のバッグは「切り出して縫って出来たものを見ながら他の部品を作り、複数の工程を同時に進める」という作業がどうしても必要でした。
このような場合、工程は正確に数えることができません。

この複雑な工程でもなお、最終的にはそれなりの作品を仕上げるために、わたしは不確定な要素を徹底的に排除しようとしました。

その手段は、次の2つです。
・焦点を絞り込むこと
・出来得る限りあらかじめ規格を揃えた部品作りをすること

◆◆◆

前者について、今回の作品でどこにフォーカスするのか、ということをオーナーに確認します。

まずは、重箱型を採用した経緯と、そのことによる作品の特性を伝えました。

【革でつくる重箱型バッグの特性】
・重くなる(上の展開図でわかるように)反面、丈夫になる
・厚紙で作るわけではないので、どれだけうまく作っても噛み合せが悪くなる

iPadのMapアプリを乗車中に使うためには、天板が丈夫である必要があるために重箱型を採用することになりましたが、重箱はそれなりの堅さを持った素材で作ることを前提としているために、革で同じものを作ったところでぴったりとは噛みあわないだろう、ということです。

ここにはデメリットもありますが、そのことを押してでも、
「iPadを使える自転車バッグ」
という要素はオーナーにとって魅力的だったようです。

わたしにとっても、これはとても面白いことになる、とワクワクするに十分でした。

このような経緯があって、まったく先の見えない状態からのスタートになりました。
ともかく、賽は投げられたのです。

(2につづく)

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